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「べっ、別にいいじゃないですか。俺の事情でも」
「ええ、いいわ。それなら、阿久津くんが好きな人の名前教えてくれる?」
「結局それですか。さっきも言いましたけど、言えません。お願いですから勉強に集中させてください」
「だ~めっ!」
軽く叱咤する智花の言葉。強くもなく、弱くもない。
そんな甘い言葉に、明は簡単に陥落した。
「わかりました」
「わ~い。だれだれ?」
満面の笑みではしゃぐ智花。普段、見ることのない珍しい光景だ。
「そっ、それは…」
「もう、もったいぶらずに早く言っちゃった方がいいわよ」
ノート、智花、ノート、智花、ノート。と、言葉を濁らせながらもチラチラと視線を動かす明。
「えっとー」
「早く言わないと、直接阿久津くんの所に行くわよ」
いつまでも話そうとしない明に我慢の限界が近付いているのか、カウンターから立ち上がる智花。
「そのぉー」
「いいわ、阿久津くん。私が行ってあげる。そうすれば、必ずあなたは喋るんだから」
オトす策があるのか、智花は自信に満ち溢れたような笑顔でカウンターから出る。
「阿久津く~ん」
ゆっくり、一歩一歩近づいてくる智花。
好きな智花を前に逃げるなんてマネは格好悪い。そして図書室へ来る事が困難になってしまう。
覚悟を決めた明は玉砕覚悟で挑む。
「おっ、俺が好きなのは―――」
石巻智花という頂上に。
「いっ―――」
キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン
スピーカーから流れる終了のチャイム。
「えーっ。完全下校時間になりました。残っている生徒は直ちに帰りましょう」
そして、下校を促す教師の声。
「ふわぁ~。よく寝た」
チャイムの音で目が覚めた雅は大きく伸びをして、横を見る。
「んっ?どうしたの、アキアキ?」
「えっ?なにが?どっか変か?」
「うん」
声は変わりない。でも、眠る前の明と変わっていた。
「どこが変なんだ、灰谷?」
「アキアキ、お顔が真っ赤っかだよぉ?」
「ぃえっ!」
雅の指摘に驚きが隠せず、声が裏返しになれ明。
「もう帰らないといけないわね」
2人のいる机に近付いていた智花は、カウンターへと戻っていく。
「カギ閉めなきゃいけないから帰ってくれる?」
「わかったよ、智花ちゃん。アキアキ帰ろ?」
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