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「あっ?…あぁ、そうだな。帰ろう」
出されたシャーペンはケースに入れることなく、教科書やノートは開かれた状態のままバッグに詰め込む明。
「じゃあ、帰ろう」
立ち上がる明。すぐに出入り口へと向かっていく。まるで1秒でも早く図書室から出て行きたいような早足で。
「待ってよ、アキアキぃ~」
図書室から出て行く明の後を追う雅。
「じゃあね、智花ちゃん」
「えぇ、また明日」
手を振り合うと、雅も図書室を出て行った。
「はぁ~あ」
2人が去った図書室で1人、溜め息を吐く智花。
「阿久津くんの好きな子って誰かしら?」
“い”と一文字しか聞こえなかった。その先は明がチャイムに驚いたことと、チャイムの音で雅が目覚めたことにより消えてしまった。
気になるが、それよりも今は出てきてもらおう。
いつまでも隠れている“カレ”に。
「先生…島野 祐介(しまの ゆうすけ)先生。雅ちゃん達帰ったので、もう出てきていいですよー」
智花が甘撫で声で独り言のように呟くとテーブルの一つからドンと鈍い音がした。
そしてその下から制服の黒とは真逆の真白な白衣に身を包んだ祐介が頭を抑えながら出てきた。
「いたたっ…」
「大丈夫ですか、島野先生?」
「うん、大丈夫だよ」と、心配する智花に笑みを向ける祐介。
「何でテーブルの下に隠れたんですか?島野先生は図書委員の顧問じゃないですか?」
「本の整理したら急にあの子達が来たからね」
「そんなの隠れる理由になりませんよ。正直に言ってください」
「いやぁ…」
小さな声で漏らしながら鼻を軽く掻く祐介。
「あまり石巻くんと一緒にいることを知られたくないからね」
「なんでですか?」
「もしかしたら僕達が顧問と委員の関係以上と周りに思われるかもしれないからね」
「いいじゃないですか、そんなこと―――」
悩む祐介の唇に軽くキスをする智花。
「本当の事なんだから」
「石巻くん、急に…」
「島野先生のこと好きだからです。島野先生は私が嫌いですか?」
祐介の唇の暖かさが残った唇で問い掛ける智花。
「嫌いというわけではないけど、君には僕よりもずっと良い男性が現れる」
「それはいつですか?」
「それは…」
俯く祐介。
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