ジョニー篇

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 真紅に輝く月の下。ジョニーは親指と人差し指で輪を作り、その穴から世界を覗いていた。  どうやら人の世は滅びる運命にあるらしい。ジョニーは失笑した。  ある世界ではラッキースターなる隕石によって地球そのものが崩壊している。  穴をずらして別の世界を覗くと、まだ無事な世界も幾つかある。しかしそれらの世界も、或いは戦争で、或いは死の伝染病で、或いは天変地異で人の世はいずれ終焉を迎える。要は時間の問題だ。 「さて、仕事だ」  今から迎えにいく男も、どこかの世界で死ぬようだ。  ジョニーは闇に溶ける翼を広げると、廃墟と化した街にゆっくりと降りた。渋谷と呼ばれるこの街は、ある世界では人々が賑わい死に怯えることなく平和に暮らしていたが、この世界では全てが真逆だった。  人間の繁栄を象徴する『天空の木』は折れた上半分が地面に横たわり、大型の電光掲示板はノイズを映し出す。崩れた高層ビル、散らばった瓦礫やガラスの破片、ひしゃげた電柱。交差点は地面が裂け、そこからは青い炎が噴き出していた。  壊滅状態にある街の中心に、不自然なほど形を保った建物がある。その中の一室にいる男をジョニーは迎えに来た。    白い服だったのだろう。男が纏う衣服は左の胸から涌きあがる液体で赤黒く染まっていた。
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