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同じクラスにはなったことが無い為、あまり喋ったことはない。
小さい頃は近所ということもあり、本当に少しだけ遊んではいたのだが、彼女は幼稚園から中学生まで私立に通っていたせいで殆ど面識の無いままできている。
見た目はショートカットでスポーツの方が得意そうだけど、きっと私より、うんと頭が切れるのだろう。彼女といつも一緒にいる高江美波さんも頭が良いと評判だ。
それなのに私と同じ高校に通っている……。
何か理由がありそうだが、それを聞く勇気は生憎持ち合わせていない。
そんな彼女が突然喋りかけてきた。このような、ばったり鉢合わせ的なシチュエーションはよくあったのだが、喋りかけてきたのは初めてだ。
「あ、那覇軒さん」
「は、はい!」
……あまりの突然の出来事に、声が上擦ってしまった。
「あの、変なこと聞くようだけど、“石”って、持ってない?」
何を言い出すのかと思えば、“石”を探しているようだ。
あの、“石”を。
誰しもが蹴飛ばしたことのある、あの“石”をだ。
いやいや、どこにでもあるだろう。と、思ったが、同時に、まさかこの頭のキレる彼女に限ってそんなこと聞いてくるわけないか。と、どこか急に冷静になった。
「石? 何の?」
「あ、えと、何のっていうか、何か、特殊なやつ」
彼女は変なジェスチャーをしながら説明をするが、一向に伝わらない。
というより、彼女がこんな変なジェスチャーをするような人だったのかと、少し彼女の中に人間味を見た気がして嬉しかった。
「特殊なって言われても。特殊な石とかは持ってないけど、どうかしたの?」
「あ、持ってないならいいんだ。ありがと」
彼女はそれだけ言うと、「しまった、もうちょっと前だったのかな……」と走って行ってしまった。
……一体、何だったのだろう。
そんなことより急がなくては。美鈴が絶対怒ってるから。
……あ、「絶対!」怒ってるから。
うちは家を出るとすぐ目の前は坂道になっている。坂道の両脇に住宅が長くつらなっている感じだ。
この坂道を下りた所にうどん屋があるのだが、そこで美鈴と待ち合わせをしている。
私は自転車にまたがると一気に坂を下った。
蝉がうるさい程に鳴いているが、頬を撫でる風が心地よい為まったく気にならない。
坂道を半分ほど下ると、緩やかな左カーブに差し掛かった。このカーブを曲がると、うどん屋までは一直線だ。
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