第1話

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自転車を漕ぐこと一時間弱。私が寝坊したせいでバスには乗れなかったので、死ぬ気で自転車を漕いだ。 いや、死んだ。 最寄りと言うには少々離れてはいるが、まあ、最寄のショッピングモールに着いた。 「あっつーい!」 美鈴は自転車を降りるなり、「あんたのせいで、いらない汗かいたじゃないの」と店内へ入っていった。 美鈴はここへ来るまで、バスに乗れなかった事への文句が止まらなかった。謝ったら謝ったで「謝れば遅刻してもいいの?」だとか、聞き流したら流したで「聞いてるの!?」だとか。私はもうなす術がなかった。 店内はクーラーがガンガン効いており、 ここまで来るのにかいた汗も相まって、寒気のするほどに空気が冷やされていた。 美鈴に「風邪ひいたらあんたのせいだからね」と言われた事は言うまでもない。 さて、今日ここへ来た目的は、先週の日曜日にここで見かけたネックレスを買うためだ。 美鈴にはそのネックレスの為に付き合ってもらっているので、今回バスに乗れなかった件については非常に反省している。 もちろん風邪をひいたら病院代は私が代償しよう。看病付きで。 今回来たデパートは、私が小学低学年の頃に出来たもので、他にここより大きなデパートはいくつもあるのだが、何せそのネックレスを売っているアクセサリー屋がここにしか無いのだ。 一路三階のアクセサリー屋を目指す。 アクセサリー屋へ着くと、ネックレスが並べてあった棚へと直行した。 が、ネックレスは無かった。 「……」 「あ、沙美。ここにあったの? よね?」 「はい。ここにありました」 何とも、寝坊してバスに乗れなかった事に始まり、汗をかいて今現在寒気に襲われている美鈴へとてつもなく申し訳なさを感じた。 せめてネックレスがあれば、これまでの苦労も (と言っても私の寝坊が無ければ苦労はしなかったのだが) 報われていたのだろう。 いつまでもアクセサリー屋にいても仕方がないので、諦めてケーキ屋でタピオカを飲んでいると、そこにクラスメイトの野元祐次が現れた。 「よお。お二人さん何してんの?」 正直この男は苦手だ。いや、嫌いだ。何を考えてるのか全く解らないから。 見た目からして、俗に言う「チャラ男」の様な出で立ちで、いかにも遊んでそうな言葉遣いも、はなはだこちらが恥ずかしくなる。
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