3人が本棚に入れています
本棚に追加
髪は金髪で、膝が破けたジーンズをお尻まで下げて履いており、しかもジャラジャラと謎のチェーン……ウォレットチェーンだっけか? を三つも四つもつけて、ポケットに手を突っ込んで肩で風を切りながら歩く。
……可愛そうに。格好いいと思っているのだろう。
「何よ? こっちはあんたなんかに用事無いの。さっさとどっか行っ--」
--!
可愛そうな彼を追い払おうとしたその瞬間、彼が首から下げているネックレスが目に入った。
「ちょっと! そのネックレスどうしたのよ!」
そう、彼がしていたネックレスは、正に私の求めていたネックレスだったのだ。
「ああ!? 買ったに決まってるだろ」
「いつ!?」
「うるせーな。さっきだよ。ついさっき」
--ついさっき。
この言葉が胸へと突き刺さり、同時に、今朝携帯の電源が落ちていた所から、美鈴に怒られてバスに乗り損ねて汗をかきながら自転車を漕いだシーンが、走馬灯のように頭の中を駆け巡った。
そして気付くと、祐次の胸ぐらに掴みかかっていた。
「ちょっと! それ私が先なんですけど!」
「何言い出すんだこいつは! おい、美鈴! 何とか言ってくれよ」
「うーん、そうね。沙美、もう諦めな。こういうのは早い者勝ちだし、何より、こんな男の目に止まる様なネックレスなのよ。大したネックレスじゃないんじゃない?」
美鈴のその言葉を聞いて、祐次の胸ぐらを掴んでいた両手から力がみるみる抜けていくのを感じた。
確かに、何が悲しくてこんなやつと趣味嗜好が同じじゃなきゃいけないのか。
と言うことは何か? 私のセンスは、このチェーン野郎と同等と言うことなのか? いいえ違うわ。断じて。
「じゃあ、その変なだっさいネックレスはあんたにくれてやるわ」
「ださいって、今の今まで欲しがってたネックレスだろ」
「うるさいわね! あんたが着けたからダサくなったのよ!」
「なんだと!」
「なによ! 大体あんたはね--」
そのまま私と祐次の口喧嘩は美鈴に止められるまで続き、結局何も買わずにデパートを後にした。
残ったのは、虚しさと、この後の長い帰り道のみ。
最初のコメントを投稿しよう!