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「福田君!ここはもう持たない!まだ息のある者を避難させて、一時退却する」
埃まみれの黒い軍服の大男、島田さんは、怪我人を肩に担いで、泥まみれの頬を拳で拭った。
「島田さん………副長はまだ戦ってるんですね?早く終わってくれないと、嫁に行きそびれるんですけどね………」
「もう六年の付き合いだろう?なんなら副長に嫁に貰ってもらえ」
「何言ってるんですか?私はこっちではもう恋はしません。どうせ、皆先に死んでいくんですから。副長を見送ったらさっさと夢から覚めて、素敵な人を見つけるんです」
砂煙の向こうで、仲間が抜刀して突っ込んでいく。
「副長はいつまで戦うつもりなんでしょうか?本当にしつこいんですよ!」
「死ぬ場所を求めて、こんなところまで来てしまったのかな」
薄く笑う島田さんに呆れて悪態をつく。
「何、男のロマン?みたいな事語ってるんですか?!副長は、負けるなんて!死ぬなんてこれっぽっちも考えていませんよ!勝つ気満々ですよ?どう見ても、負けてるのに。馬鹿なんですかね?」
「馬鹿って、福田君………」
「ホント、函館まではるばる来たぜ!です。あの人は、負けるなんて考えたこともないし、死に場所なんて絶対探しませんよ。生きるために戦ってるんですから」
でも、私は知っている
もうすぐこの戦が終わる
夢から覚める
この夢が始まったのは六年も前のあの日
「………私の青春は、新選組に捧げてしまった。もう二二歳ですよ?そろそろ普通の女の子に戻りたいので、副長諦めて下さい。ホントしつこいんだから………」
銃弾が耳をかすめる。
よろけてふと、ぬかるみに足を取られた。
その泥水からは、息のない仲間の流した血の匂い………
そう
六年前もこんな風に始まったんだ
私は16歳を迎える何も知らないただの子供だった
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