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喫茶『工具箱』。
いつもそこでコーヒーを飲みながら、単語帳でも捲っているのが日課になっている。
杭淵磨耗というのが少年の名前だ。
8月下旬であってもまだ暑い。にも拘わらず、黒い学ランを纏っている。
「……暑い」
「このクソ暑い時に熱いコーヒー飲んで、厚い学ランを着ているからよ」
「撫胸さん、それ超つまらない」
それでも熱いコーヒーを飲みながら杭淵は言う。
「万能家は現在5人。なのに、4番目の万能家であるあんたがそんなんじゃ――何と言うか、心配よね」
「何が言いたいんですか?」
「自覚持てっつってんのよ。あんたの才能は100年の1人の天才ならぬ、天災なのよ?」
「自覚……僕の一番嫌いな言葉ですよ」
言いながら、杭淵は取り出した鋼鉄の棒を撫胸に向ける。しかし、撫胸はピクリとも動かない。
「自覚って、あなたは僕の何を知ってるっていうんですか?」
「私とあんたは似てる。ベクトルは違えど、私とあんたは似た者同士なのよ」
撫胸の背中から輝く羽が伸びて、杭淵の首筋に近付けられる。このまま触れば、杭淵の頭部は跡形もなく焼け消えるだろう。
「……僕は、あまり争うのとか好きじゃないんですけど」
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