~・シレネ・~

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「私が弱かったんです…」 はらはらと涙を流す熟女って、なかなかどうして絵になるし味がある。 特別美人て言うわけではないが、持ってる色気や雰囲気は男心をくすぐる。 「今回は貴女にも非があった。万引きは犯罪ですからね。つき出されなかっただけ…ね?」 「はい…」 涙を拭く姿を見てると、情がわきそうだ。 「それでは俺はこのへんで…」 「あ…あの…明日の晩…あいてますか?」 彼女は『お礼をさせてください』と言う。 「気持ちだけで…」 「お願いします」 情に流されてしまった。 次の日――― 仕事の帰り、彼女と待ち合わせ食事をした。 昨日とはうってかわり、明るくよく笑い、実に社交的だ。 こんな出会いではなかったら、少しは心惹かれたかもしれない。 本来の彼女はこんな女性なんだろう。 食事が終わり店を出ると、彼女は震える手で俺の腕を掴んだ。 「勝手なお願いだって…わかっています。私に…一夜の思い出を…くれませんか?」 「え?あの…」 「私はもう貴方くらい若くないですし、あんなことがあった後なのに…平気で貴方にこんなこと頼む女です…」 こういうことに誘う手慣れた女と違い、震える体で必死に俺を見上げる姿は情が移ってしまう。 「今の私を捨て、前を向いて歩くために…一夜の思い出を…私にください…お願いします」 頭を下げる彼女に、すっかり情が移ってしまった。 「行きましょうか?」 「あの…」 「“一夜の思い出”を作る場所ですよ。どこがいいですか?」 彼女は目に涙を浮かべ『ありがとうございます』と言うと歩き出そうとする。 「俺の腕が空いてますよ。思い出作りはもう始まってます」 「はい…ありがとうございます」 赤い顔でおそるおそる俺の腕に自分の腕を絡めた。 「エスコートしてくださいね。俺はどこに連れていってくれるのか楽しみです」 「そんなに期待しないでください…私は詳しくないから…でも、憧れの場所なんです」
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