笠置山の夜

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その夜は荒れていた… 激しく身を襲う風雨の中、断崖をよじ登る無数の人影。 鉄製の熊手を引っ掛けながら少しずつ、少しづつ、攀じ登る。 一行はようやく心もとない足場に差し掛かり、一息入れた。 上を見上げるが断崖はまだまだ続く。 目指す頂上は暗闇に覆われて確認することが出来ない。 そのすぐ上には険しい断崖がそびえたつ。 断崖は屏風を立てたかの如く重なった岩石、 それは青苔に覆われて、いかにも滑りやすそうであった。 一同の中に、諦めにも似た深い溜息を漏らすものもいる。 「まず、俺が行く」 男は太刀を隣の男に手渡すと縄を背負い、単身切立った崖を登っていった。 何度も滑り落ちそうになりながらも男は登り続ける。 一同が神妙に様子を見守る中、男は難所を登りきった。 その上方の崖に生える木に縄を引っ掛け、スルスルと下に垂らす。 「さすが陶山殿」 太刀を手渡された男が号令を掛け、預かった太刀を背に背負い縄に掴まり登り始めた。
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