戦火は燃えず

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 10月27日深夜。防寒着を纏ったまだ幼い子供数人が、クレムリン宮殿前の赤の広場を貸しきりにして遊んでいた。  石畳の上でかけっこや鬼ごっこをする程度のものだが、大人たちに隠れての夜遊びは新鮮で楽しかった。武装した見張りの兵士も数人いるし、身分的にも安心だ。  子供らは今、背景に窺える異国情緒溢れる特色を備えたクレムリン宮殿内で、泊まり込みで頭を悩ませている政府高官たちに同行してきた家族だった。  親たちの忙しさの隙をつき、兵士にチップを渡してこっそりと、銃眼と望楼に彩られた城壁を越え、この遊び場を確保したのである。
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