1.神ノ子

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 どこの誰が、こんな不便な場所に学校を建てたのか。何度、俺は造った連中に文句を言いたいと坂道を登る度に思ったことか。元々、国土の四分の三が山というお国柄とはいえ、もう少し、マシな場所に学校を建てようと思わなかったのか。  自宅から学校までの地獄のように長く緩やかな坂道を自転車で登るというのは一種の拷問だ。いっそのこと、一思いにラクにしてくれと思う、今日、この頃だ。そんな俺のすぐ横を、同行の運動部の女子が汗をかきなら、朝練で坂道を下るのとすれ違う。これが、晴天の下ならば、俺の顔も緩みそうになるが、今はそんな気分にはなれない。この今にも雨が降るのではないかと思えるほどの曇天とした空では、気分は重く、華やかな青春の雫ですら、鬱陶しく感じてしまう。  申し遅れたが、俺は県立南高校に通う学生、ジョンだ。言っておくが、本名ではない。誰が好きこのんで、外人みたいなあだ名を俺につけてくれたのか、小学校から現在に至るまで、通り名はジョンであり、本名で呼ばれた記憶はない。誰かが、俺に本名を名乗られまいと妨害しているのではないかと疑いたくもなる。  一応、この話の語り部ではあるが、それもどこまで続くことだが。できることなら、早いところ出番を終わらせてもらいたいものだ。それというのも、俺は今、重大な問題を抱えていた。重大な問題というのは、俺の後ろの席にいる彼女のことだ。夏休みに入る直前まで、学校に通っていたというのに、夏休みが明けると同時に来なくなってしまった。見馴れた幼なじみだった分だけ、居なくなると寂しさを感じてしまう。何故、学校に来なくなったのか。これを読んでいる貴方なら怪しげな組織に誘拐されたとか想像することだろう。しかし、事実はそうではない。  今日もあいつは来ず、穏やかな一日が過ぎ去る。授業終了を告げるチャイムが鳴ると、俺は迷うことなく席を立ち、部室へと向かう。南高校は生徒が学習する棟とは別に、部活動用の棟が用意されていた。それだけ、青春を楽しめということだ。渡り廊下を歩き別棟の階段を上がった四階が俺達の部活だ。
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