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「えっ赤城? 渋川伊香保じゃなくて?」
姉ちゃん次だって次っ! バカもう遅いよっ! 逆走しちゃえば? できるわけないでしょ! えーたまにいるじゃんそーゆー人。年寄りとか。エリちゃん死にたいの? いーよいーよもっかい高速乗ろうぜ。そんな三者のやりとりを電話越しに聞きながら、わたしは次善の策を考え出す。「乗んなくていいよ。とりあえずそのまま渋川駅まで行ってくれる? わたしもそっち行くから」
ゴメンお母さんクルマ出して! 電話を切ると、わたしは部屋着のTシャツとハーフパンツを脱ぎ捨て、長らくタンスの肥やしになっていた花柄の白いワンピースを纏う。
8月上旬のこの日、わたしの友人が3人もやってくるとあって須藤家は落ち着きがない。いったいどんな人が来るのか。お母さんも、おじいちゃんも、そして仕事に出かけたお父さんも、それぞれに期待を膨らませ、また不安を募らせていた。とくにお母さんは食事などの準備に余念がなく、3人の好き嫌いを事前にリサーチするほどの手の入れようだった。ただ、最大の悩みどころは女子2人と男子1人の寝場所をどうするかである。客間の和室は8畳あり、とりあえず3人分の布団を敷くことはできる。が、男女3人を同室させるわけにはいかず、かといって杉本くんを客間からはずすとなると、彼の行き場は定員に余裕のあるわたしかおじいちゃんの部屋しかなくなる。前者は論外、後者では彼がおじいちゃんに気を遣うはめになるだろう。AKBのうんちくを夜通し説かれるといった被害も予測できる。では、エリナがわたしの部屋に行き、瑞希さんと彼を客間に置いてはどうか。これも、いくら姉弟とはいえ瑞希さんが嫌がる可能性がある。まさか押入で寝かせるわけにもいかないし……。結論はまだ出ていなかった。
おまけにこのアクシデントである。一行が関越で予想以上の渋滞に巻き込まれたあげく、下りるインターを間違えたのだ。
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