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杉本くんと連絡を取りながら、わたしもひと足遅れて市中心部の渋川駅前に着いた。薄桃色の軽自動車の表で彼が手を振っていた。夏期講習ではクラスが被らなかったため、その姿を見るのはおよそ半月ぶり。黒のポロシャツにカーキ色の短パン姿で、先々月五厘にした髪はすでに長めのスポーツ刈りといえる程度に伸びていた。わざわざごめんな。いえいえこちらこそ。どこか他人行儀に挨拶を交わすと、わたしは促されるまま助手席のドアを開ける。「ごめんなさいこんな遠くまで」と、まず瑞希さんに詫びた。
「いーのいーのオフの日はどうせヒマだから」
こんなふうにあっけらかんと返されてしまうと二の句が継げない。ユカ~と後部座席のエリナが意味もなくわたしの体に手を伸ばしてきた。
軽く会話しているうちにお母さんのクルマは視界から消えていた。わたしたちも国道17号を数キロ北上し住まいのある赤城エリアに入る。田舎でゴメンナサイ。わたしが言うと、うちらの地元も似たようなもんだよと瑞希さんが言い、まあなと杉本くんも同意する。一方、横浜住まいのエリナはなにも言わなかった。あまりに壮大に広がる田畑や連なる山々を前に、下手に同調することは憚れたのだろう。
ともあれ、一行がわたしの家にたどり着いたのは14時過ぎだった。砂利の敷き詰められた庭にクルマを止めると、長らく車中に居続けた瑞希さんとエリナが大きく伸びをした。瑞希さんはノースリーブに近いTシャツにスキニーデニムという格好でスレンダーな体型が際立っている。顔立ちもモデルのように整っているだけに、『おひとりさま』なのが不思議なくらいだ。一方、エリナは胸の谷間が覗けそうなボーダー柄のタンクトップにデニムのショーパンというこちらの予想をほぼ裏切らない格好。普段の制服姿に比べより無防備というかストレートな色気を発している。これはなんとかしないと。ちょっと待っててとわたしは3人をこの場に置き、家に駆け込んだ。
部屋でタンスの中身を物色し、1分足らずでまた庭に戻った。
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