友よあなたは強かった(1)

2/17
前へ
/17ページ
次へ
 須藤ちゃん。  須藤ちゃん。  呼びかける声で、わたしはふと目を覚ます。 「須藤由佳ちゃん、だよね?」  ぼやけた視線の先にジャージ姿の女の子がいた。ミディアム丈の黒髪に、つねに笑っているか眠っているように見える細目。眉はやや細くなっていたものの、ノーメイクの顔は中学時代の面影を多分に残していた。「ハルちゃん……?」 「やっぱり須藤ちゃんだぁ!」ハルちゃんは顔をクシャクシャにして笑んだ。「髪型変えたんだ~一瞬わかんなかったよっ」  興奮する彼女の一方で、わたしははっとした。「いま、どこ?」 「え? 渋川出たとこだけど」 「あ、そっか」ほっとすると同時に彼女のテンションが移った。ハルちゃ~ん! とわたしは揺れる車内で人目も憚らず彼女に抱きついた。「元気してた?」 「それ、こっちのセリフ。通うのたいへんなんでしょ?」  あっ、と彼女がわたしの足下に落ちていた数Ⅰの教科書を拾い上げた。「勉強がんばってんだね」 「ハルちゃんこそ部活がんばってんだ。いまも陸上?」 「うんっ。須藤ちゃんは?」 「わたしは部活はちょっと……」 「そっか」そうだよねというふうに彼女はうなずいた。  次の駅でともに電車を降りた。時刻は19時に近いが、空にはまだ明るさが残っている。人通りのない駅前でわたしたちは長らく話し込んだ。ハルちゃんは部活などで充実した高校生活を送りつつ、やはりわたしのことは案じていたらしい。ちゃんと寝てる? 友達できた? てか河田くんとはどーなってんの? といった具合にわたしは質問攻めに遭った。河田くんのくだりは耳が痛い。が、近況を伝える上では避けて通れない話題だ。元気してるよ。クラス違うからあまり顔合わせることないけど。わたしは真相は口にせず、クラスにも結構カッコいい人いるからなぁとごまかす。いいな男子かぁ、と彼女は共学への憧れを口にする。やっぱ東京の男の子ってレベル違うの? まあそこそこね。あ、栃木出身の人もいるけどたぶんここらの男子よりはレベル高いよ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加