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旧友との再会は素直に嬉しい。無条件にテンションが上がる。が、それでもわたしはハルちゃんとの会話を純粋に楽しんでいたわけではない。過酷な通学事情に同情されたから? 地元での気楽な高校生活に嫉妬したから? はたまた聞かれたくないことを聞かれたから? どれも違う。ただただ、彼女に対しては後ろめたさが付きまとうのだ。
東京へ通う本来の目的が失われたことで、わたしは自分の選択の愚かさを思い知った。と同時に、後ろ髪を引かれる思いが鮮明に蘇った。一緒にシブジョ行こーよぅ。かつて1人の男子を追うことに必死だったわたしは、もう1人の幼なじみの誘いを蹴った。
わたしはハルちゃんを裏切ってしまった……。
「ユカぁ、あんたきょうヘンだよ。ぼけーっとして」左側を歩くエリナが言う。
「須藤ちゃんいつだってこんなじゃん」なにをいまさらとばかりに、今度は右側の杉本くんが言う。
わたしたちは教室へ戻るところだった。わたしとエリナは美術の授業からの帰りで油彩道具一式を携えている。一方の杉本くんは、芸術科目では少数派の書道を選択している。廊下で出くわした際、彼は1人だった。
きのうの帰り、中学の友達に出くわしたことを話そうか……。そう思ったときだった。正面から2人の男女が笑顔を交わしながらやってくるのが見えた。河田くんと柿崎さんだ。わたしは目線を下へ向け、この場から逃げ出したい衝動に駆られる。するとそのとき、エリナがわたしの背中に手をまわしてきた。しっかりしろとばかりに。そうだ。卑屈になるのはよそう。わたしは自分を奮い立たせ、まっすぐ前を見た。
「須藤ちゃん」近くまで寄ってきた河田くんが唖然とする。「髪……」
「うん。切ったんだ」
「短いのも似合ってんじゃん。かわいいよ」
「ありがと」
久々に彼と交わした会話だった。
2人が通り過ぎると、「いまのが……?」と杉本くんが口にした。
「うん。わたしの好きだった人。とそのカノジョ」
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