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「おれのがぜんぜんイケてんじゃんとか思ったでしょ」エリナが杉本くんに突っ込む。
「思ってねーよバカ」
まあその頭じゃね。先日五厘に刈った杉本くんの髪にエリナが手を伸ばす。
触んなと杉本くんがその手を払いのける。「てか彼女でかくね?」
「もしかして見とれた? おれのが彼氏にふさわしいとか思っ──」
「っせーよ! つーか気ぃ遣えよ!」
せっかく過去形で言ったのに……。わたしはわたし越しに言い合う2人にうんざりしながら「べつになんとも思ってないからっ!」と思わず声を上げてしまった。
「……。ま、あたしたちがいるしさ」
「そうそう。恋なんてしょせん一炊の夢さ」
そして励まされてしまった。
音楽の授業が長引いているのか、教室にいる人はまだ少なかった。席に戻ると、エリナがふと言った。「あの柿崎さんって人なんだけどさ……」
「なに」わたしに気を遣ってか慎重そうな口ぶりの彼女に先を促す。
「なんかよくわかんない人だって1組のコが言ってた。出身中学とか自分のことぜんぜん話さないし仲のいいコもほとんどいなくて。謎の美少女って男子には評判らしいんだけどさ、まあ……あのとおり彼氏持ちだし」
「謎の……。なんか前のわたしみたいだね」
「あんたはただの怪しい人。とにかく素性の知れない人なんだって。参考までに」
いまさらなんの参考だと思いつつわたしは聞いた。「やっぱり中学は別だったんだ」
「うん。でさ、いろんな説があるみたいよ。病弱で学校通えなくて歳がはたち過ぎとか、どっか遠くのお城から飛行機で通ってるとか、あと鉄人兵団のスパイでじつはロボットだとか」
およそでたらめな噂である。が、それらにどこかしら似通った印象ならたしかにわたしも抱いていた。
ただ、前に彼女を山手線内で見かけたことをわたしは思い出していた。
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