友よあなたは強かった(1)

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 その日、長文の朗読に柿崎さんが指名される。彼女は流暢に、しかしほどよい速さでそれを読み上げる。Perfect! 先生は感嘆符付きでその実力を称え、次に誰を指そうかと半分ほどしか席の埋まっていない教室を見まわす。するとなにを思ったか、わたしの隣にいるエリナがいきなり手を挙げ、続きの英文をスラスラと読み上げた。かくして得られた評価はGreat! 単純に比較はできないが、まあ一歩及ばなかったといったところだろう。彼女もそれを知ってか、わたしに照れ笑いをしてみせる。『なにはりあってんの』。わたしがルーズリーフの切れ端に書いてエリナにまわすと、『だってあんたの敵じゃん』と彼女は返してくる。ため息をつきそれを無視すると、彼女はさらに紙切れをまわしてきた。こう記されていた。『かえり尾行してみない?』。  エリナを見た。彼女はニヤニヤと笑み、柿崎さんのほうを目で指した。  わたしはその話に乗った。単純に興味があったからだ。授業が終わると、わたしたちはさっそく柿崎さんの動きを追う。彼女と河田くんは一緒に教室を出て、昇降口前までやってくる。2人はその場に立ち止まり少し話を続けたのち、なにかを詫びるように河田くんが手刀を切る。対する彼女は小さく手を振り、靴を履き替える。河田くんはこれから部活で体育館へ向かうのだろう、期待どおり2人はここで別れた。  学校を出た彼女は品川駅方面へ向かう。急いでいるわけではなさそうだが、長い脚で歩くペースは速く、うっかりしていると見失いそうになる。20メートル前後か、わたしたちは彼女と路線バス2台分くらいの距離を保ち、人通りが多くなるにしたがいその間隔を詰める。こうして駅前までやってきたとき、スーツを着た若い男が彼女に声をかけてきた。なにあれナンパ? スカウトだよきっと。ええっやっぱモデルとかの? しかし彼女にその気はないらしく、簡単に断る動作を見せてさっさと行ってしまう。渋谷とか行ったらたいへんそう……。エリナがつぶやくと、スカウトされたことあるの? とわたしは聞く。あるよ何度も。バカにしないでよとばかりに彼女は胸を張る。キャバクラでしょ、ガールズ居酒屋でしょ、あと女子高生のぞき部屋……。もういいわかった。
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