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「ウソ? じゃああの2人……もしかして同棲?」
「そんなわけないじゃん」
「じゃあなんであいつ1人で」
「たぶんね、妹の勉強でも見てあげるんだと思う」わたしはそう推測した。「わたしも地元でよく遊んだげたわ。3つ下で今年から中学なんだけど」
「そうなんだ……」戸惑いを隠せない声で彼女がつぶやく。
「むずかしいんだよね異性のきょうだいって。まして思春期になっちゃうと」
もちろんそんなことが問題なのではなかった。柿崎さんはすでに、それだけ彼の家族の信頼を得ている。要はそういうことだ。
もうわたしが立ち入る余地などないのだ。友達としても。
なんだつまんない。エリナが小さく吐き捨てると、わたしたちは言葉少なに来た道をまっすぐ戻る。こんなことしなきゃよかったとエリナは内心後悔しているかもしれないが、わたしはそうでもなかった。現実を(より深く)知ったこと自体は悪いことではない。むしろこれでよかったのだ。
平和島駅で帰りの電車を待つ。次のは通過だ。やがてホームに警報音が流れ、警笛を鳴らしながら赤い電車が急接近してくる。そのときエリナの体がわたしに密着した。
轟音と強風を携え、ものの数秒で電車は走り去ってゆく。
「飛び込まないからっ」わたしは抱きついていたエリナの体を引き離した。
「ほんと?」彼女は至近からわたしの顔に手を伸ばし、指先でそっとなぞるように目尻に触れる。「でも心配」
「……ごめん」少し無理してわたしは笑う。「ありがと」
どんな言動がわたしの命取りになるかわからず、彼女は不安だったのかもしれない。
続いてやってきた電車に乗り込むと、わたしは自ら働きかけてみた。「エリナ、わたしんち来るって言ってたよね」
あっ、と思い出したように彼女は口を開く。「うん行く行く。ってこれから!?」
「違うよ。でも夏休み中のがいいんじゃない? なんもないとこだけど」
じゃあ足確保しないと……。思案するように彼女は言った。
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