第1話

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男性に気付くと、がっちりと瞳が合った。 その瞬間、男性の周りの風景すべてが白くぼやけてその人物しか見えなくなった…… ような気がした。 そんな感覚は初めてのことで、その状況が自分でもよく分かっていない。 「あの…」 男性が遠慮がちに声をかけてくる。 「あっ、すいません」 現実に引き戻されるように我に返り、とっさに謝った。 何に対しての謝りになるかは微妙なところではあるけど、それ以外何を言えばいいのか分からなかったから。 ふいに自分が赤面しているのを感じて俯く。 さっきの行動を挙動不審に思われたかもしれない恥ずかしさはもちろんある。 だけど、俯いてしまったもう一つの本当の理由。 そこに立っている男性がいわゆる"タイプ"だったから。 一番好きな俳優にもどことなく似ている。 雰囲気からスタイルや顔のパーツ、どれをとっても見事ドストライク。 今まで一度もヒトメボレをしたことはない。 物語の中のことだけだと自分には縁遠いものだと思っていて。 たとえば学校や街で見かけて、あんな雰囲気の人っていいなと思ったことはあってもただ心の中でそう思っていただけ。 恋愛小説か有名な曲の歌詞だったか定かじゃないけど「胸の奥で鐘の音が響き渡る」なんてよく言ったもの。 まさに今、言葉そのままを実感している。 教会から聞こえてきそうな幸せの鐘の音色で、胸の中が埋め尽くされたような感覚に陥っていた。
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