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「どうぞ、かけてください」
男性はそう言って、カウンター席真ん中の椅子に手を向けている。
「HiNOi、人気がありますよね。僕もこの店をHiNOiでまとめるぐらいのファンですよ」
先ほどとはうって変わり、まるで何か肩の荷が下りたように平静に戻っている男性。
一方の彗星は男性の言葉に黙って相づちをうちつつ、勧められた椅子に静かに座るが未だに胸のドキドキが続いていた。
男性との距離が近くなり、目の前に座るとなるとさらに緊張が増すばかりだった。
こういう時は目を閉じて大きく深呼吸だ。
それから大好きなHiNOiの話題でどうにか緊張を逸らそうとする。
「全部ですか?」
「はい」
「カウンターもデザインがそうかなとは思ったんですけど、たしか販売製品としてはなかった気がして」
HiNOi製品は把握できている自信はあったのに。
「これ、特注なんですよ。えーと…実はHiNOiに知り合いがいるから、そいつに頼み込んで」
「えっ、誰ですか?」
共通の知り合いかも。
そう思ったらなぜだか嬉しくなって、つい立ち上がりそうになり何とか留まった。
だめだめ、落ち着こう。と自分に言い聞かせて。
「って訊いても同じ部署の人達ぐらいしか分からないんですけどね」
「デザイン部の人です。…誰かは言わずに。もしも知り合いだったりして僕の裏話でもされたらたまんないですから」
そう言って、いたずらっぽい顔をして笑うと八重歯がのぞいて、その笑顔に胸の奥がきゅうっと縮んだ感覚がした。
…やっと平静に戻れそうだったのに。
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