146人が本棚に入れています
本棚に追加
-----
三津さんに案内されたグループ棟にあるBBQテラス。
あまりの広さと完備ぶりに感激しながら、騒いで喜ぶ女性二人。
それを満足げに傍観する、三津さん。
完全に部外者扱いの、俺。
早く彼女との距離を詰めなきゃいけないって事が頭の大半を占めていて、
皆との温度差を感じつつも、遠くを見つめて我関せずっているんだけれど。
正直、全然---面白くない。
でも、流石に、ここの雰囲気を一人で壊すのも大人げないかと思い留まる事にした。
頬をくすぶる冬風に流される様に耳を澄ませば、渓流の音が響いてくる。
それは柔らかく心に届くようで心地良くて、気持ち良くて。
…なんだ。
こーゆーのも悪くないかもな、って耽っていたら、
大人二人にフェイントをかけられた。
「---春樹君は高嶺の何処が好きなの?」
「あ、春樹君。そー言えばっさっき俺に、
高嶺さんの好きなトコとか何とか言ってたなぁー。なんだっけ?」
---ハイ?
いきなり不躾な事を聞いてきた二人に、驚きを隠せない。
高橋先輩は…単に面白がってるだけなんだろうけれども、
それに便乗した三津さんの言葉は、確実に…俺への嫌がらせだよな?
そして、込み上がってくる苛立ちに追い打ちをかけるように、
「ええ?春樹君、何処が好きなの?」
身を乗り出しそうな程、俺に向けられた高橋先輩のランランと輝く瞳。
その視線を回避しようと、一先ず目線を泳がせる事にした。
”何処が好き”…、って、なんだろう…
考えた事もなくて、言葉を詰まらせてしまった。
いつかは誰しも心が変わる。
裏切って裏切られて後悔して、そんな自分を嫌いになって。
好きだという思いさえ、疎ましく思う事になるに決まってるんだ。
離れていく心が掴めないのなら、
初めから、何も期待なんてしなければいい。
こんな自分が、誰かを好きになる事なんて、
好きだと伝える事なんて、有り得ないって思うから。
「うーん?、
じゃー高嶺さんは、春樹君のどこに惹かれたの?」
俺からは期待する応えがこないと気付いたのか、
三津さんは諦めた表情で俺を一瞥した後、彼女へと視線を移した。
その質問にピクリと肩を揺らしてから、
眉間に皺を寄せて今にも唸り声が出そうな程、頭を抱えている彼女。
彼女にそのまま視線を向けていようとも思ったけど、やめた。
最初のコメントを投稿しよう!