第6話

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目が合った瞬間にどんな表情で向き合えばいいのか分からないから、黙って視線を落としている事にした。 --結局。 彼女は何も応えなくて。 その態度が、胸に何かが突き刺ささるような感覚にさせる。 彼女が何も答えてくれなかった事に、 沈むような押し寄せるこの痛みは…何だろう。 自分が応えられない事を、 相手には求めてしまうのは…何故だろう。 ---無い物ねだり?、いや、違う…か。 自分と誰かを比較する事は、あくまで自分を知る為の手段だと思ったから。 だから彼女からの言葉を欲しただけで、意味なんて特に無いんだと。 そう、思っているのに…。 この時は、それでも彼女からの応えが聞いてみたいと思う気持ちに戸惑う自分が居た。 ---- 俺の葛藤や戸惑いになんて気付く筈もない、彼女。 BBQテラスから部屋のコテージに戻るや否や、 ソファーに寝転がって寛ぐ俺に、仁王立ちで鬼形相を向けている。 どうやら俺とXmasを過ごす事に抵抗しているみたいだ。 ”そんなに意識しなくても何もしないから”と思いつつ、いつもの笑顔で攻めたら…またしても彼女は俺に気を許してくれた。 あの赤く染まった顔、 俺を見つめる彼女の悔しそうな瞳。 それを見たら、スッと蟠(わだかま)りが消えてく気がして可笑しくて、心から笑えた自分がいた。 彼女の表情や態度で一喜一憂するなんて、どうかしてるよな… そんなやり取りをしていたら、ノック音がして、 コネクティングドアの方へ視線を向けると、 ドアに凭れ掛かって腕組みをしてコッチを見ている三津さんと視線が絡む。 ---”神出鬼没だな、おい!”って 心で突っ込みながら、消化不良みたいに落ち着かない気持ちのまま、 夕食前に温泉に向かう事になった。 ここは、全てのお風呂が源泉かけ流し。 絶対に癒されてリラックス出来るであろう環境の筈なのに、 ピリピリ張りつめて気が抜けないのは… 一緒に浸かっている…隣の男のせいであろう。 特に男同士で会話なんかある筈も無く、 ましてや、相手が相手なだけに関わりたくもない気持ちが拭えなくて、 少し距離を取って温泉に浸っていた。 数十分、互いに沈黙のまま時が流れる。 「「……。」」 この場所に二人しかいない状況で、 御互いダンマリを決め込み続けるのはどーだろう? ってかさ、普通年上のがこーゆー場面で気を利かせて会話盛り上げてくれるもんじゃない?
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