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”年下の俺が話題振るとかどーよ?”と思いながらも、そのまま何も喋らずにいれるわけもなく、ついに俺は口を開くことにした。
「俺、聞ーてなかったんすけど。」
”ん?”と、彼はこちらに顔を向けるでもなく気のない返事を返す。
「貴方からこの旅行の件、
聞かされてなかったんですけど。」
そう言った瞬間、
ニヤリと意味深な薄ら笑いを口元に見せた。
「そーだっけ?
でも、学生なんだし、ドーセ、暇してたでしょ?」
「……。」
さも当たり前であるかのように言われた言葉に、
喉が詰まったような感覚が押し寄せる。
フッざけんなよ…
”暇してたって、どーゆー了見っすか!!”って睨みを利かせた。
其れにものともしない笑顔で、
「あれ、来たくなかった?
それなら今から一人で帰ってくれてもいいよ。
俺が高嶺さんの相手しておくからさ。」
と、返された言葉に…、もはや脱力してしまう。
「…イエ、帰りませんけど。」
駄目だ。
俺、こいつ嫌いだ…
話せば話すほど、体力使わされるし、疲れていくタイプだと認識して肩を窄めた。
”それよりさぁー、俺気付いちゃったんだけどさ。”と、何処か挑発的に発せられた言葉が滴る水音に混ざり合って耳に届く。
「春樹君、高嶺さんと付き合ってなんかいないよね?
だって、高嶺さんの君を見る目、恋してますってツラじゃないもんね。
それに君も彼女の事、本当に好きじゃないんでしょ?」
「ーーー」
噛み合わない俺達の関係を嘲笑うかのように、見据えられた瞳。
俺の瞳が一瞬ゆらりと揺れた。
「春樹君。
俺、少し前に偶然見ちゃったんだよね。
居酒屋で、酔って潰れそうな彼女のグラスに小細工してるの。」
「……。」
「あれ、ナニヲしてたのかな?」
「……。」
試されるような彼の瞳を逸らす事は…出来ない。
まさか、彼女との最初の接触場面に居合わせていたなんて思ってもみなかった。
…失態……犯した、か?
「彼女に手、出さないの?さっきの様子だと、
まだ二人は一線を超えたような雰囲気には見えなかったんだけど。」
「……。」
どうしてそんな楽しそうに、
不躾な事を聞いてこれるんだと言葉を無くして目を見開く。
そんな俺の姿を見るなり三津さんは、”ブッ。そんな目で見なくったって。”と冷笑を浮かべながら、
「俺が代わりに出しちゃおうか?」
と、真っ直ぐ突き刺さるような瞳で俺を見据えた。
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