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「そしたら春樹君の中で何か、弾けるかもしれないよ。」
「……。」
---ハァ?
露骨に眉をひそめて見返した。
「だからさ、”賭け”しようよ?」
「---嫌っす。」
「…君に断る権利あると思ってんの?
俺が譲ってやってんだよ、
君が乗らないなら強引に高嶺さんの唇、
いや、身体ごと全部奪ったって構わないんだけど。」
--思ってもみなかった言葉に再び目を見開いた。
「貴方は、別にアイツに近づくメリットないじゃないっすか。
高橋さんが好きなんでしょ。」
イキナリ何ほざいてんだよ、オッサン!!
「…ああ、由佳? 別に好きでも嫌いでもないよ。
まぁ、俺が誰を好きかなんて俺の勝手だし、
手出したいって身体が疼くんだから仕方ないでしょ。
高嶺さんの唇、プリプリしてるし。美味しそうだからね」
「……。」
「彼女、ニブソーだし。
押し倒すのも簡単そうだよね?」
クスリと笑う俺の目の前のコイツに、思わず武者震いしてしまった。
ブチッ!と頭の線はすでに切れてるけれど、ここで我を忘れたように感情を剥き出しにしてコイツと向き合うのは俺の方がフリな気がする。
--その手には乗らねーよ?
一歩引いて彼から目線を逸らし、落ち着いた声で婉曲に断りを入れる。
「しませんよ、俺。
賭け事とか嫌いなんで。」
「フーン。
じゃぁ、高嶺さんにバレてもいいんだね。」
クスリとまた自嘲するような薄笑いを浮かべた。
「まぁ、彼女には黙っててあげてもいいからさ、
俺と飲み比べしようよ。」
「----。」
「そんな睨まなくたって、もし君が買ったら、
俺は高嶺さんの事を諦めてあげるから安心しなよ。
でも、もし君が負けたら、そうだなー、
高嶺さんの唇、取りあえず頂こうかな。」
「…なっ、」
「どうかな、やる?
と、ゆーか、君には断る権利なんかないと思うけどね。」
ニヤリと不敵に微笑んで、”あ、そうそう。”と呟きながら背中越しで言葉を続ける。
「それと、由佳とナニヲ企んでるか知らないけど、
チョロチョロと彼女を変な事に巻き込むのは止めてくれよ?」
「……。」
低い声で言い捨てて、向けられた鋭い横顔に寒気が走る。
俺に背を向けてその場から離れていく後ろ姿を凝視したまま、何も言い返せなかった。
もう一発、カウンターパンチを食らった俺は、
あーゆータイプには関わりたくねえ…、と湯に体を沈めて一人悶えていた。
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