第6話

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---- 温泉を出た後は、4人での食事。 張り詰めた微妙な空気感は拭い切れないまま、一先ず終了。 それで終われば良かったのだけれど、タイミングは悪い方へと転がっていく。 酔っ払っていた高橋さんから、自分にお声が掛ってしまった。 さっき風呂場で、”チョロチョロ巻き込むのは止めてくれ”って釘を刺された直後のお誘い。 ビシビシと突き刺さるような三津さんの視線は… 見えないフリして、いつもの笑顔で頷いた。 宿泊コテージに戻る途中の廊下で、力なく座り込む高橋さんの肩を抱いて、近くの扉から外に出ようと足を向ける。 三津さんは冷めた表情を浮かべて俺を一瞥した後、何も言わずにその場を離れていった。 その後ろ姿を横目で捉えて、俺は視線を静かに落とす。 「…どーしたの?」 外の空気を吸うや否や、再びしゃがみ込んだまま、ピクリとも動かない彼女に優しく声をかける。 「……。」 何も言わない彼女に次にかける言葉は…と、思考を巡らせて言葉を選んだ。 「言いたい事があるんなら、 我慢なんかしないで、全部吐き出せばいいよ。 俺が最後までフォローするからさ。」 俺の言葉に、膝を抱えて小さく身体を丸めていた彼女の身体が揺れる。 「……ううん、…もう……いいの…。」 ゆっくりと顔を上げて向けられた瞳からは、大粒の涙が零れ落ちていた。 真っ直ぐに俺を見つめて、 「……もう、…やめたい……」 と、息吐くような力無い弱った声で呟いた。 その言葉を受けて、俺の思考が一瞬止まる。 …”もう、やめたい”。 どうして…そう思う事に行きついたのか。 何で、諦めてしまうのか。 ナニガそうさせてしまったのか。 聞きたい事はあったけれど、その浮かんだ全ての問いかけを飲み込んで、別の言葉に変えて口にした。 「……俺のせいかな?」 「……っ」 彼女は細い首を小刻みに左右に振って、否定する。 そんな彼女に目を細めて、自分も彼女の傍にしゃがみ込んだ。 ”俺のせいか”って、聞くのは間違ってるのは分かってる。 昨日の今日でクライアントになった彼女の傍では 何も行動に移せてないのだから、彼女自身の問題なのだろうと思うから。 けれど、やっぱり諦める事はいつでも出来るのだから、 もう少し頑張ってみて欲しいと思ってしまうのは… --俺のエゴだろうか。
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