第6話

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「…君さ、弱いのに何でこの賭け乗ったの?」 とマジマジと聞く三津に、 「あーーでも…、まだ飲めますけど…」 と小首を傾げながら深く息を吐いた。 「こんなんじゃ、賭けになんないし。 わざと彼女の唇、奪わせてくれよーとしてくれてんの?」 「……。」 俺は眉を寄せて顔をしかめた。 …そんな筈、ないだろーが。 ”何で”って、あの部屋に居んのが息苦しかったから、…それだけ。 「君、なんか迷子みたいだね。」 ”迷子?”と言葉を繰り返しながら、三津さんに注がれたグラスに口をつける。 「そう。だって、自分の気持ちに自分で分かってないみたいだし。 ハタから見てると、痒いんだよね。 高嶺さんも…君も。 そんな二人を見てると、なんだろうね…無性に壊したくなる。」 そう自嘲するような薄笑いを見せる三津に、春樹は顔をしかめた。 「うっわ、歪んでますね…」 春樹の言葉に、やっぱり三津は、”フツーじゃない?”と乾いた笑顔を見せた。 「…壊すも何も。 そもそも俺は別に彼女の事、何とも思っていないんで。」 頬杖をつきながらボンヤリとグラスを傾ける春樹に、 三津は”ふーん”と声を漏らす。 「だからこんな賭け、意味無いんすよ。」 「じゃあ、何で俺に付き合ってくれてんの? ああ、もしかして、俺が露天風呂で言った事を気にしてのご奉仕って奴か。 そんなに隠したい後ろめたい事なんだ? まあ、別に彼女に何も言うつもりないから安心しなよ。 ってかさ、さっき二人で温泉に居たけど、…シテタの?」 ニヤニヤと悪戯顔で覗き込む視線をかわして、 「イーエ。」 とだけ即時に答えた春樹に、三津は大きく舌打ちする。 「…んだよ、マジつまんねえーなぁ。 男としてあの場面で動かないなんて、終わってんじゃねえ? 俺なら、200%ヤるね。つーか、止めらんないね。 君、もしかして草食系とかなわけ?」 「……。」 出来るなら、俺だってヤリたかったよ。 三津は、ふらりと頭を揺らして既に瞼が重そうな春樹の顔を 呆れたように眺めてから、”素直じゃないねえ。”と心で呟き、目を細めた。 「若いうちから我慢ばっかしてると、大事なもん見失うよ。」 「経験談からっすか?」 「---まあ、ね。今の俺みたいになりたくなければ 自分の気持ちには素直になった方がいいよ。」 ハハハと大きく笑いながら、新しいワインボトルを手に取った。
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