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「誰よりも由佳の傍に居たつもりだった。
素直じゃないから、言いたい事も気持ちも裏腹な態度でしか示せなかったけど、遠くからいつも見ていた。
辛そうな時は胸を貸すつもりで、わざとからかうように近づいたりして、
由佳に頼って貰えるよう、必死で…、滑稽で。
それを由佳は分かってくれてると思ってた。
最後には俺を頼るだろうって、甘えていた。
俺を選んでくれたら、手を取ってくれたら離さないって…、
そんな俺の気持ちが少しも届いて無かった事に全く気付けなかったんだ。
結果、アッサリ振られちまったんだからな。」
軽く苦笑した三津は、「それは、…」と口を挟んだ春樹に、”うん。”と言葉をかぶせて続けた。
「うん。多分、本心じゃないって思ってるよ。
意地張って俺を断ったんだろーって感じたしね。
でも…、その時思ったんだ。
俺じゃ駄目だって感じてしまったんだよ。
だって”俺を振った”っていう自分が傷付いた気持ちの方が、
”彼女の幸せを願いたい”って気持ちより大きかったんだから。
驚いたよ。
俺は結局、自分の事しか考えない人間だって、
自分の気持ちを相手より優先させるんだって感じた。
思わされたんだ、俺は器が小さくて自己中で、そんな俺が彼女を守るなんて笑えるよなって。
出来るわけないだろうって、思い知らされたんだ。
--だから、やめることにした。
彼女から離れて、逃げて…見ないようにしたんだ。
カッコ悪過ぎ、クソ喰らえって徹底的に、アイツの存在を全否定した。
そうしないと、俺が俺でいられなくなりそうで。
俺には眩し過ぎて、届かないって思い知らされるのが嫌で、自分を守る事を選んだんだ。」
フウ…、と息をついて、三津は前髪を一度かき上げてみせた。
「それから月日が流れて、
ああ…あの時逃げた選択は間違えてたなって、今更知っても後の祭。
俺が歩み寄ろうと一歩踏み出せば、下がって離れていく彼女。
何年かぶりに再会したかと思えば、仕事の話をしに来ただけで。
俺が引き止めたって、アイツの瞳に映る事のない自分。
昔の消化不良に終わったものが、執着心として残って疼いて。
無性に苛々して、しまいには最低な事を思いついた。
まだ接点が欲しくて。
昔みたいな幼馴染の関係には戻れないなら、別の関係を作ればいい。
高まる気持ちを抑えられなくて滅茶苦茶にしてやろうと思った。
全部、俺の我儘で始まった事だったんだ。」
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