第6話

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「だから、俺たちがどうにかなるなんて事、ないんだよ。 この旅行で、全て終わりにするつもりで来たんだ。」 「え?」と春樹は目を見開いた。 「一度すれ違った男女の歯車は、簡単に元には戻らない。 残念ながら、あの時のような熱さは今の俺には、もう残っていない。 月日が流れて社会に出て、立場も変わった。 あの頃のように、ただ好きだと伝えるわけにはいかなくなった。 俺は、なりふり構わず守ってやれる程、もう自由な立場じゃなくなっちまったんだ。」 そう言って一度視線を落としてから、三津はゆっくりと春樹に視線を向ける。 「でも、君には俺と同じ間違いはして欲しくないから伝えておきたくてね。 欲しいなら、欲しいと伝えるべきだと。 思っていた以上に、男女間で相手に気持ちを伝えるべき絶妙の時期ってのは少ない。 それを逃すと戻りたくても戻れなくなったりもする。 後悔したって遅くなるんだ。」 静かに目を伏せる三津に、「なんで…そんな話を…」と春樹が呟くと、 自分のペースを守りながら手を進め続けていた三津の手が止まった。 「君にアイツを持ってかれるのは、癪に障んな… って思ってたんだけど、違ったみたいだからね。 俺の最後の我儘に、一緒に付き合わせてしまったお詫びを兼ねて、 少し昔話を聞かせてあげよーと思ったんだよ。」 「---最後って?」 訝しげに聞き返してくる春樹の言葉に、三津は苦笑した。 「君、意外と人の話を聞いてくれてたんだね。 素っ気無くて、興味ねぇ…って顔してるから 全然聞いてないのかと思って、油断したな。」 ”マジで話し過ぎたかな。”と言って、ハハッと楽しげに笑う三津に 「話を逸らすなよ」と睨みをきかせる春樹。 「大人には色々事情がある、としか言えないね。」 「--ハア?ズリぃ!!」 「ハハッ、大人は汚くてズルイもんだよ? そんで、賭けも俺の勝ちだからね。 勝負は勝負、高嶺さんの唇頂くよ?」 二ッコリと不敵に微笑んでワイングラスを掲げる三津に 「……。」 なんで、こんなガキ扱いされてんだと、…肩を落して春樹は深いため息をつく。 「君、マジで酒弱過ぎ。」と困ったような表情で笑う三津の目が、 なぜか”寂しい”と訴えているように感じて春樹は眉を下げて乾いた笑いを向けた。 ---こうして呆気なく、賭けは俺の負けに終わった。
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