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バーカウンターから、彼女の寝ている寝室へと二人で移動して、
躊躇なく彼女のベットの傍に腰を下ろすのをただ眺める。
逆上せて意識のない彼女に、キスをするのは三津さんで。
賭けに負けた俺は、何も言える立場ではない。
「……んっ…」
寝顔を覗かれ、人の気配に気づいたのか、高嶺がモゾッと少し体を動かした。
何とも悩ましげな声に二人で反応して、三津はフッと春樹の方へ顔を向ける。
「(…プッ。悔しそうだね?)」
からかって楽しむように笑いながら横目で一瞥されては、
「(---別に。)」
ブスっと不貞腐れた顔するしかない。
”このまま目を覚ましちまえっ!”と思ってみても、
彼女の安らかな寝息が静かな部屋に響いているのが現状で。
”起きろよ、アホ……。”と思いながら深く溜息をついた。
その溜息に気付いたのか、
「(大丈夫だよ、俺上手いから。)」
と自信ありげに微笑んでみせて、彼女の肩に触れていく。
そんな姿を、何故自分が見守るように突っ立って見てなきゃいけないのか。
「……。」
ゆっくりと近づいていく二人の距離。
ベットの背もたれに片腕をかけて、彼女に覆い被さるように重なっていく顔と顔。
ギリッ--っと拳に力が入るのに、動けない身体。
見てらんねぇ…、って眼の前の二人から背を向けて、その場から立ち去ろうとしたら…
「(そこにいろよ、俺様命令!)」
と、どこか勢い込んだような声が後ろから聞こえてきた。
「……っ」
--ハアア!?命令って、何様だ!!
お前らのキスシーンなんか見たくもねーンだよって、首が折れるんじゃないかって速さで振り向くと、
視界の先で重なっていたのは…
三津さんの唇と---
--彼女の額で。
「---」
絶句。
「……ブッ。何っ、…その顔笑えるね?(笑
でも、その今の顔が何よりも彼女への気持ちなんじゃないの。
早く素直になっちゃえよ。」
片眉を上げて不敵な笑みを見せながら、
俺の肩に手を置いて、颯爽と姿を消していったソイツに、
---マ・ジ・で、ムカついた!
俺の事、からかいやがったな!!ってか俺だって、ガキじゃねーし。
キスの一つや二つでガタガタ言わねーつーのに!
変な気を遣われたせいで、何だか気恥ずかしくなってしまう。
余計なお世話、だっつーの…
溜息をついて自分の中に残るのは、--知らなかった強い衝動。
何とも言えない気持ちでその場に項垂れて、小さく笑った。。
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