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”素直になっちゃえよ”
その言葉が耳元に残って、心がザワザワと居心地悪い。
……何を考えているんだろうな、俺は。
自分の事を考える暇があったら、先程聞いた彼の話から考える事があるだろうに。
どうやって高橋さんが気持ちを伝えればいいのか、とか…
他にも、もっと、もっとある筈だ…
寂しげに瞳が揺れていたように見えた三津さんの顔が、
浮かんでは消えていく。
” あの時のような熱さは今の俺には、もう残っていない。”
遠くを見つめる様な目をして
諦めた表情で視線を落としていた。
本当にそうなんだろうか…
もう一度、再会できたからこそ今度は繋ぎとめたいと思って、別の関係を作ろうと藻掻いたんじゃないのか。
高橋さんの瞳に映りたいと足掻いたんじゃないのか。
” だから、君には俺と同じ間違いはして欲しくないから
伝えておきたくてね。………後悔したって遅くなる。”
不意に見せたあの表情は、苦しそうで……
とても昔の話をしているようには思えなかった。
まだ忘れられないと、
忘れたくないと瞳が揺れている気さえした。
そして、なぜかその言葉に、
ーーー胸がグッと締め付けられる。
自分と…重ねて。
戻りたくても戻れない。
もう遅いんだと。
そもそもが…間違いだったと言われたようで。
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眠いようで寝れなかった。
重い瞼を抱えてウトウトしてたら、眩しい光が部屋に差し込んでいた。
眩しさのあまり、思わず両手を額にかざす。
ああ…寝不足だし、酒のせいで頭も痛てぇ…と、
ソファーに寝転がって重い身体を休めながら、ペットボトルの水を口に流し込む。
コクコクと、喉を潤す水が冷たくて、まっさらで。
自分の中に埋もれた感情を、全部流して忘れさせてくれるような、
そんな気がした…
のに、この重い気怠さだけは除かれない。
ソファーに、のめり込む格好でガクリと倒れて瞳を閉じた。
それから暫くすると、彼女が階段からソロソロと下りてくる足音が聞こえてきたので身体を起こす。
ボンヤリする頭のまま深く腰を沈めていると
階段からこちらに申し訳なさそうに顔を出した彼女と視線が絡んだ。
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