第6話

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違和感でも、何でもいい。 今はただ、傍で笑っていたい…そう思っていた。 ーーーなのに。 あの後も、朝食の時も、 俺の昨日の行動を許した訳じゃないって、睨み顔を向けている。 どこまでも、 ーーー開かれない彼女の心。 でもそれが、俺の歪んだ心に拍車をかけて、 もっとからかって欲しいと、ねだっているようにしか見えなくて。 彼女の本心から目を背けるようにからかって、 俺のペースに巻き込めば彼女の心も掴めるのだと、思っていたんだ。 無意識に浮かんだ思考は、いつだって、 彼女を困らせて惑わせるものしかないのに。 そんな事をしていても、彼女の心が見えてくる筈もないのに。 ----どうして俺は、 こんな考えしかできないのだろう。 今だって、これから同居していく上でギクシャクするのを避けたくて、 彼女との関係を取り繕う為に、 咄嗟に思いついたのが、コインの裏表ゲームで。 あれは元々、インチキコインを2枚(両面『表』のコインと両面『裏』のコイン)で行ったもの。 コイントスをしてもしなくても、 とにかく彼女に、『表・裏』どちらかを言って貰うだけでいい。 彼女の言った方のコイン(両面『裏』コイン)を袖に隠して、 彼女の言わなかった方のコイン(両面『表』のコイン)を見せてあげる、 ーーーそんな簡単なトリックだった。 馬鹿らしい。 こんな事までして、俺が貴女の傍に居るなんて。 なんて滑稽で、 なんて無様なんだろう。 ---視線の先。 固まって、少し困惑の表情を見せている彼女。 彼女はこのコインの結果を見つめて、 ……何を思っているのかさえ、分からない。 俺が邪魔だと、追い出したいと…やっぱり願っているのだろうか。 ---チクリと傷んだこの胸に、 --気付いて欲しい。 --欲しくない。 まるで、コインの表裏のように相反するこの気持ちを 俺は何処に向ければいいだろうか。 ----
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