第6話

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---- 旅行の最後に、 急遽行うことになった”缶蹴り”。 実際に缶を蹴った高橋先輩の一言が、 俺の心を掻き乱していく。 「だから、春樹君と高嶺がキスしてって言ったのよ?」 「「ーーーえ?」」 意味のわからない罰ゲームを 彼女と二人でする事になってしまったのだから。 彼女も自分と同じように、胸高まっているかと思えば、 この時も……、 彼女の顔は、”マジで嫌です!!勘弁!!”って、 あからさまに引き攣(つ)った表情を浮かべていた。 「……。」 勿論、そんな顔を向けられては、 攻めたくなってしまうのが男の心情というもので。 沸々と一度沸き上がってしまったら、もう止められない。 「ーーー」 俯く彼女の目の前に、ゆらりと足を向けて立ち止まる。 見下げた彼女の顔は強張っていて、 その顔が、なんとも面白くなくて。 まるでジェットコースターのように気持ちが浮上した後に、 突き落とされたような、この気持ち。 …居た堪れない感が拭えない…… 何か答えられたわけではない。 言葉で伝えられたわけでもない。 けれど、心の奥に突き刺さるんだ。 その瞳が、彼女の確かな答えなのだと思い知らされてしまう。 不安。嫌気。拒絶。 それしか感じられない事に、震えて軋むような切なさが押し寄せる。 何で、こーゆーシチュエーションで、 顔を強張らせて、引き攣った顔で俺を見ているんだよ…… 普通、マジでキスする5秒前って、もっと頬染めてとかモジモジとかさ…… こんな……、ぶつけどころの無い気持ちが溢れて止まらなくて。 そんな中、 訝しげな顔をした彼女の口から洩れた言葉は、 さらに俺を貶(おとし)める。 「ねえ、 …春樹はこの件に絡んでたりは …してないよね?」 「……。」 って、ナニ?…。 俺が絡んでるって、何の話? 意味がわからない上に、どこか疑われてる事が気に食わなくて。 --ねえ。 ---どうして… いつも慌ただしく、彼女の表情はクルクルと変わる癖に、 その表情の中に愛しいものを見る様な、憂いを帯びたものが無いんだろうかと思ってしまう。 どうして… それが俺の為に向けられないんだろうかと思ってしまう。
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