第6話

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「たかちゃん」 出てきた言葉は、彼女の質問に応えるものではなくて、 ただ、静かに彼女の名前を呼んでいた。 当の本人は、身体をビクッと揺らして 未だに俺への拒否反応を身体中から出している。 ---面白くない。 掴めなくて、引き留められもしない彼女の心。 そんなに…、 そんな……、、 俺が、嫌いかよ。 苛立ちを抑えきれないまま見つめた視線さえも、 ---簡単に、逸らされてしまう。 ゆっくりと後ろ歩きに何歩か下がる彼女に反して、 逃がさぬ様に数歩近づき歩み寄る。 ……余程、俺に近づかれたくなかったのだろう…… 俺に追い詰められた際に、焦った彼女の足が縺(もつ)れて、今にも倒れそうなくらい彼女の身体が傾いていく。 それを支えようと、咄嗟に力強く抱きしめるように自分の胸に引き寄せた。 華奢な肩、細い腰に手を回したら、 包み込むように、俺と彼女の距離が縮まっていく。
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