第6話

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「…ちょっ、春…樹っ」 慌てて見上げられたその顔さえも、 焦りと不安と困惑の表情しか見えなくて。 色付いて赤く染まる頬は、どこにも見当たらない。 グッと唇を噛み締めるように漏らした言葉は、 「ーー俺の事、好きになってよ」 溜息のように微かに、 けれど、呟いた言葉は声に出した瞬間からじんわりと広がっていく。 形になって心に響いていく。 「好きになって欲しいんだ。」 静かに両手を伸ばして目の前の小さな顔を掴まえたら、 ……スッと閉じられた、彼女の瞳。 ”諦めました。”とでも言うように観念した彼女の顔を見やり、 自分も瞳をゆっくりと閉じてみる。 一瞬、ゆらりと心揺らされながらも、浮かんだのは、 --昨夜の…、あの光景で。 彼女の額に迷いなく近づいていく、飄々とした男の顔。 月明かりに照らされていた、あの白くて艶やかな肌。 その痕跡を消したいと沸き上がる、--衝動。 --戸惑う自分。 自分は何一つ、本心を見せていないのに。 彼女の心が見えない事が、酷くもどかしいと感じてしまう。
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