第6話

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何も言い返してこないままの俯いた小さな頭がいつもよりも一層小さく見えて、 手が勝手に彼女の頭の上に触れていた。 彼女はどこまでも浅はかな考えで、扱いやすい。 俺の言葉に、態度に、笑顔に簡単に惑わされてしまう。 ”ね、たかちゃん?”と眉毛を下げて優しく微笑んでみせれば、 ”…ぅん。”と何処か腑に落ちない顔をしながらも頷く彼女。 そんなクダラナイやり取りが俺には滑稽で仕方ない。 いつだって密かな企みを悟られぬように彼女にゆっくりと近づいて、 彼女の気を引こうとしてる俺に気付いていないんだから。 この時も俺の言い分は完璧で、 「いや、だってさ。たかちゃん迷惑がってたし?」 「俺、邪魔でしょ? 早く出てって欲しいんだよね?」 「だから、三津さんと高橋先輩の件なんだけど俺は、 やっぱ協力できないからさ、別の誰かに頼んでみてくれる?」 彼女が何も言い返してこないのがイイ証拠だった。 自分からは二度と、”此処に置いて下さい”なんて言いたくなくて。 いつまでも彼女の下だと思わされるのがいい加減、限界なんだよね。 「ま。どうしても俺に、後5カ月居て欲しいって、 たかちゃんが言うのなら 俺も協力してあげてもいいんだけどね?」 「ず、ズルイよ!」 悔しそうな顔で抵抗する彼女の顔が、面白くて仕方なくて。 俺に相談したのがそもそもの間違いなんだと、気付けばいいのにね。 「…じゃ、たかちゃん。後5カ月の間、仲良くしようね?」 「初デート楽しみだね」 貴女の心を惑わす為に、無邪気な笑顔を向けている。 貴女の意識を掴む為に、甘い声で囁くんだ。 そして、知らない内に一つ一つ翻弄されていく貴女を 笑う事しか出来なくて。 …ごめんね。 彼女の弱さに漬け込んだ。 俺にはこんなやり方でしか、 彼女の傍に居られる術が見つからない。 汚いってズルイって思っていてくれて構わないよ。 その通りだと、頷くことしか出来ないから。 悲しむ事のない嘘で 貴女の傍にいられるのなら どんなに良かっただろう。 もしいつか、 俺の騙した事全てに気付く事があるとするならば、その時に 貴女の涙を 感情を 心を 全てを優しく支えてくれる誰かが傍に居ればいいだなんて 勝手に思うくらいなら、罰はあたらないだろうか。
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