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カチャッ…とドアノブが静かに開き、
開いた瞬間、鼻に響かせるような柔らかい声が上から降ってきた。
「春、明日から新たにクライアントを一人追加するから。」
---ハ?
「…今なんて?」
信じがたい言葉が耳に届いて思わず聞き返さずにはいられない。
大きく瞳を見開いて、寝ころんでいた身体を勢いよく起こした。
「春、人の話は一度で理解するものだよ。
同じことはニ度言わない。
それに、聞こえていたんだろう?」
そう言い返されて一瞬、
相手の剣幕に怯みそうになった自分に失笑した。
「…いやいや、聞こえてるけど。
そもそも理解出来るとか出来ないとか以前の問題だから。
俺、今、手イッパイで他の人の面倒とか見る余裕ねえから。
無理、ぜってー無理。
やらない、引き受けねえからな!!」
煽られて押し込まれてしまう前に、強く牽制しようと試みた。
けれど、その相手は押し黙ることなく口を開く。
「 高橋由佳 」
「ーーー」
名前を上げられた瞬間、眉が微かに動いてしまった。
「この人が誰と関わりあるのか分かるよね、春。」
「ーーー」
知らない。聞こえない。
俺はやる気無いんだから。
無視無視無視…
そんな俺の姿を客観的に捉え、懸念を抱きながらも、
平常心・自然体を維持して引き下がりを見せないこの男。
「周りから攻めてみるのもいいんじゃない?
今の春を見ていると、
俺には見るに見兼ねる状況の様に思えてならないからね。」
「無理なもんは無理。」
「やる前から諦めていたら何事も始まらないだろう。
もう決定事項なんだよ。」
「---ハア?他の奴にやらせればいいじゃねえかよ。
俺は、まだ学生でこれでも色々忙しいんだよ!!」
" 決定事項 "って強制じゃねえかよ、そんなのパワハラだっつーの。
「大学の必修単位がすでに修得済なのは事前に調査済だよ。
春の場合、就職も悩む必要無いしね。
そんなの暇を持て余してるという象徴の他に何かあるか?」
確認するように鋭い視線を俺に向ける。
「----」
瞬殺の瞳を向けられて、チッと小さく心で舌打ちをする。
俺の事調べて言ってくんなよな。
コイツに敵うわけがないなんて、初めから知っていた事。
やる前から足掻いたって遊佐には全く届かない。
でも。
本当に自信がないのも事実なんだ。
自分に余力さえあるのか疑問で。
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