インビジブルガール

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 彼女は恵太の新しい恋人で私から彼を奪った女だ。  目の前に婚約者だった女がいるというのに、私の姿が見えない彼女は眉根一つ動かさずに寝室へと消えた。バッグを置いてきただけなのかすぐに再びダイニングへと姿を現した彼女は、夕飯でも作るためなのか台所の方へ向かって歩いていく。  その時また電話が鳴った。ソファに座っている間にも何度か電話が掛かってきたため、私はもう驚かなくなっていた。けれど彼女の反応の仕方に目を見張った。  彼女は弾かれたように固定電話の方へ振り返った。顔色を変え、電話の方を凝視したまま傍目からでもわかるくらいに震え出す。そして一歩、二歩と後ずさる。まるでメリーさんからでも電話が掛かってきたみたいな反応だ。なぜ彼女が電話に出ようとせず、それどころか怖がっているのか私にはわからなかったが、その様子はとても滑稽に見えた。 「あたしメリーさん。今あなたの後ろにいるの」  私は彼女の後ろに立ち、そう言ってみる。私を捨てたのは恵太だからメリーさんごっこをやるなら彼の後ろに立って言うべきだが、そうなってしまったのはこの女のせいなのだから問題ない。このまま都市伝説のように目の前の女を刺してしまいたかったが、私は刃物なんて持ってないし、恵太に会う前に殺人鬼化するわけにはいかなかった。
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