インビジブルガール

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 苦しくて苦しくて、視界はきちんと現実世界を描画していたもののなぜか真っ暗で、ドロドロと憎しみや悲しみが混ざり合って絶望化したそれに身体が満たされ支配されていた。何も考えられなかった。ただただこの状況から私は解放されたがっていた。だからグシャグシャに潰れて内臓が飛び出たりして見るに耐えない惨状になるとかそういう予想なんか度外視で、むしろそこまで考えが及ぶ前に私は近くのビルの屋上から地面目がけて頭から飛び降りたのだ。  そして私は死んだのだ。彼女が自殺したと言ったのはそういうわけなのだ。 「あいつがあんな遺書さえ残さなければ。あいつが自殺さえしなければここまで君を傷つけずに済んだのに。俺があいつとさえ付き合っていなければ……」  全てを思い出した私の耳に恵太の毒々しい、憎しみさえ感じる言葉が突き刺さった。しかも後悔さえ滲むそれは私に向けられたものだった。 「あいつさえいなければ……」 「それはさすがに言い過ぎよ。あの人は自殺してしまう程恵太のことを愛していたのよ」 「君は優しすぎる。あいつが俺のことを愛していた? ただの押しつけだろう、こんなのは。俺らに対して名指しで一方的に非難して自殺するなんてさ。俺はあいつと愛せないまま付き合い続けるなんて不誠実な真似はしたくなかったんだ。だからはっきりと君を連れて別れを告げにいった。なのにあいつは死んだ。いくら愛していようと振られたぐらいで死ぬなんておかしいだろう! 本当に俺を愛していたなら潔く諦めるべきだろう。当てつけのように遺書まで残して死にやがって。俺や君を、あいつの両親や知り合いの槍玉に上がるように仕向けるやがって」  忌々しげに恵太はさらに言った。その瞳には明確な憎悪が揺らめいていた。私に対しての。
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