インビジブルガール

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 私は泣きたくなった。けれど涙は出てこなかった。込み上げてさえこなかった。それはきっと私がただの透明人間じゃないからだ。誰からも姿が見えなくなっただけではなかったのだ。死んだのに今自我を持ち恵太の家までやって来た私は、透明人間というよりもどちらかというと足はあるが霊的なものに近いに違いない。だから誰も私の存在に気づかなかった。空港で発券機のタッチパネルが無反応だったのも、サラリーマンの肩を思い切り叩いても痛がる素振りすら見せなかったのは、そもそも私がそうしたと思っていただけであって、実際には触れてすらいなかったのだ。家から外へ出る時も、閉まったままの自動ドアを通る時も、恵太の家に入る時も私は一人だった。誰かが開けた後に一緒に入り込むのではなく、一人で通り抜けられた。妙にふわふわと身体が軽かったしそこまで意識していなかったから気づかなかったが、私にドアノブを握り扉を開けた記憶はなかった。恵太の家に勘で引き寄せられるように辿り着けたのも、きっと私の想いが強かったからだったのだ。  今の私が幽霊のようなものなのだったら、おそらく強く憎み殺意さえ抱けばきっと目の前で恵太と抱き合っている、私から最愛の人を奪った女だって殺せる。ポルターガイストのような現象を起こすのかとか具体的なことはわからない。しかし、強い憎しみさえあれば殺せる確信があった。でも……。
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