プロローグ

2/6
前へ
/271ページ
次へ
プロローグ 「おじさん。アタシ買わない」 まだ幼さの残る少女はそう言うと、短いスカートを少し捲くり上げた。 「いくらだ」 ほろ酔いの男はポケットに手を入れ、クシャクシャの千円札を出すと、少女に渡した。 「これで飴玉でも買えよ」 そう言うと歩き出す。 男は安い酒を何杯か飲み、追い出される様にいつものバーを出て来たところで、行くあても無く歓楽街をフラフラと歩いていた。 「ちょっと」 少女は走り、前を歩くその男に追い付く。 「飴玉が欲しい訳じゃないのよ。アタシを買って欲しいの」 男は立ち止り、一度、汚れた空気を胸いっぱいに吸い込んだ。 「あのな…。悪い事は言わねえから、そういうの止めろ。後で後悔するぞ…」 若いヤツに説教するのは嫌だった。 極力、説教染みない様に言葉を選んでゆっくりと語った。 「おじさん…、お金無いの…」 少女は男の目をじっと見て聞いた。 「ああ、金も無いし…何もない。過去も未来もな…」 男は笑って再び歩き出した。 「だけど、女には不自由してないぜ…」 そう言うと、後ろ手に少女に手を振る。 少女は男の後ろ姿を見ていた。 その背中には何処か哀愁が漂い、寂しげだった。 「君」 その時、少女の肩を叩く者がいた。 少女の後ろには警官が二人立っている。 「こんなところで何をしているんだい。君、未成年だろう」 少女はその警官を睨む様に見た。 「何だって良いでしょう」 少女は警官の手を振り払う様に解き、歩き出した。 男は立ち止りタバコを咥え、火をつけた。 ふと振り向くとさっきの少女が警官に肩を掴まれ、抵抗していた。 俺には関係ない…。 男は煙を吐いた。
/271ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加