31人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ
「おじさん。アタシ買わない」
まだ幼さの残る少女はそう言うと、短いスカートを少し捲くり上げた。
「いくらだ」
ほろ酔いの男はポケットに手を入れ、クシャクシャの千円札を出すと、少女に渡した。
「これで飴玉でも買えよ」
そう言うと歩き出す。
男は安い酒を何杯か飲み、追い出される様にいつものバーを出て来たところで、行くあても無く歓楽街をフラフラと歩いていた。
「ちょっと」
少女は走り、前を歩くその男に追い付く。
「飴玉が欲しい訳じゃないのよ。アタシを買って欲しいの」
男は立ち止り、一度、汚れた空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「あのな…。悪い事は言わねえから、そういうの止めろ。後で後悔するぞ…」
若いヤツに説教するのは嫌だった。
極力、説教染みない様に言葉を選んでゆっくりと語った。
「おじさん…、お金無いの…」
少女は男の目をじっと見て聞いた。
「ああ、金も無いし…何もない。過去も未来もな…」
男は笑って再び歩き出した。
「だけど、女には不自由してないぜ…」
そう言うと、後ろ手に少女に手を振る。
少女は男の後ろ姿を見ていた。
その背中には何処か哀愁が漂い、寂しげだった。
「君」
その時、少女の肩を叩く者がいた。
少女の後ろには警官が二人立っている。
「こんなところで何をしているんだい。君、未成年だろう」
少女はその警官を睨む様に見た。
「何だって良いでしょう」
少女は警官の手を振り払う様に解き、歩き出した。
男は立ち止りタバコを咥え、火をつけた。
ふと振り向くとさっきの少女が警官に肩を掴まれ、抵抗していた。
俺には関係ない…。
男は煙を吐いた。
最初のコメントを投稿しよう!