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「ありふれたことだからな。きみは訓練中の進駐官が一年間でどれくらい死ぬと思う?」 「情報が公開されていないので、わかりません」  タツオは隣りに立つ少年に驚いていた。すくなくともジョージは、訓練中の死者数について調べたことがあるのだ。戦争の勝敗と作戦の成否、犠牲者や負傷者の数については、進駐官作戦部が完全に情報を統制していて、民間には官製の都合のいい情報しか流されていなかった。多くの皇民は戦勝続きの威勢のいい報道に拍手喝采(はくしゅかっさい)している。 「年平均で200人ほどだ。五十嵐高紀(いがらしたかのり)についてはたいへんに残念だったが、その200人の殉職者(じゅんしょくしゃ)のひとりに過ぎない」  タツオはそのいい方に腹が立った。あの小柄(こがら)な少年の勇敢な行為の価値が200分の1におとしめられた気がする。五十嵐は自分を守るために二度も命を投げだした。その結果ひとつしかない尊い命を犠牲にしたのだ。できるだけ黙っていようと決心していたのに、タツオは口を開いてしまう。
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