第1話

4/4
前へ
/4ページ
次へ
ーー松田に惚れたのは、入部希望届けを顧問に提出しようとして、初めて会った時。一目惚れだった。この人しかいないと思った。 「あなたも美術部?」 「あ、うん」 「そう」 その時初めてかわした素っ気ない会話が、嬉しかった。 それから一年と八ヶ月経って、彼女が大吉をバカにするのは、日常になっていた。 彼女は、笑うようになった。聞いてもない事を、ポツリと呟く時もあった。たまに、喧嘩もする時もあった……。 そして、大吉の日々のキャンバスはまた彩られていた。甘く、切なく。 今はまだ、報われぬ恋。もしかしたら、卒業して初恋で終わる恋。だけど、すこしづつ心で触れ合える二人だけの空間の中で、その芽は膨らんでいる。松田は大吉を知り、大吉もまた松田を知りゆく。 この、静かで地味だけど、ほんのり甘みが香る美術室。彼女の隣にいられる喜び。恋情。 思えばこれは、どんな甘さでも買えるものでは無い。 夕日が沈み、大吉の本日の、計三時間程度の長いようで短いマジックアワーが終わる。 そしていつかは終わる日常を憂いながら、今宵も明日を望む。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加