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「ううん、チョコ大好きだから、嬉しかったよ」
「よかった」
「あのね、もう気にしないで」
成宮充が訝しげに花菜を見る。
「ほんとに、もう大丈夫だから。送ってくれるのも、今日だけで十分だから」
責任を感じているのは、痛い程伝わってくる。逆に悪いとさえ思う。
「……ただ、俺がそうしたいからって言っても?」
意外な答えが返ってきた為、理解が遅れた。答えにつまる花菜に、成宮充は言葉を続ける。
「知ってたんだよね」
「え?」
「矢澤さんが、あそこで絵描いてたの」
「…………」
「先週位まで、毎日来てたろ?」
「……うん」
「先輩らけっこう人気あって、女子とかよく見に来てるんだけど」
その中には成宮充のファンもいるのだろう。気になって、聞きたいと思ったけど、言葉の続きを待つ。
「矢澤さん、かえって目立ってたよ。周りははしゃいでるのに、1人だけ恐い目で俺らの練習見てて」
成宮充が苦笑する。花菜は鎖骨まで赤くなる。
「一週間ぐらいした頃には、部内の奴等にもう1人の監督だって言われてて」
すごく恥ずかしい。もうサッカー部の前を歩けない。
「今日も監督が睨んでた、とか話題になってて」 「も、もうわかったから……やめて……」
「すげー真剣に観察してるからさ、なんか俺らも気合い入れてやんないとマズイなって……思ってた」
「…………」
「それを、ボール一発で台無しにしてさ…………すげー悪かったよ」
彼は、外見だけで人気があるわけじゃない。それだけの理由があるんだ。
「だからさ、絵が仕上がるまでは、送るよ。どうせ俺も練習あるし」
成宮充が微かに笑う。
その表情がやはりカッコよくて、花菜は目を合わせられず、俯いた。
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