第1話

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「花菜(カナ)は何描くか決めた?」 昼休み、弁当を囲みながら美妃(ミキ)が言う。 「ううん、まだ。美妃は……決まってるよね」 花菜は玉子焼きを口に入れる。 少し甘すぎた。出来るだけ自分で作ってはいるが、何故か味が定まらない。 「もちろん!サッカー部に決まってるでしょ。センパイ居るもんねー」 「だよねー…」 美妃は頬を染めて嬉しそうだ。こういう素直なところ、本当に可愛いと思う。 肩まで伸ばしたブラウン系の髪に、細身の体型。切れ長の目は大人びて見えるが、実際に話すと素直で話しやすい。 対する花菜は、身長153㎝で太くもないが、細くもない。唯一の自慢はクセのないストレートの髪だったが、この前クラスメイトの男子に「こけし」と言われ、切りすぎてしまった前髪を後悔している。 「なになに、何の話?部活?」 早智(サチ)が身を乗り出してきた。 昼休みはたいていこの3人でお弁当を食べている。 私と美妃は美術部で、学祭の展示に向けて一年生に出されたテーマは「スポーツ」。いつもシンナー臭い美術室で描いているから、たまに別の場所で描くのは楽しみでもある。 早智に説明すると、キレイにまとめた髪をいじりながら含み笑いをする。 「それでサッカー部ね。樫原(カシハラ)センパイ目当てかー」 花菜は頬杖をついた。 「私も外で描きたいのは決まってるんだよね。気持ちよく描けそうだし」 「一緒にしようよー。実際ひとりでグラウンドは恥ずかしいし」 確かに、ひとりで運動部の前にいるのは目立つし勇気がいる。 「私もサッカーにしよっかな」 「やった!!楽しみだね。これで放課後は堂々とセンパイを堪能できる」 「絵を描こうよ」 花菜と早智の声が重なった。
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