第1話

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そして放課後。 花菜と美妃は、サッカー部が練習するグラウンド脇の芝生に座り、下絵を描いていた。 動きが多いから、写真も数枚撮る。 「やっぱセンパイはカッコいいなー」 美妃はここぞとばかりに何枚も写真を撮っている。 花菜は手を止めて樫原センパイの方に目を向ける。 確かに整った顔立ちをしていて、これでサッカーが上手いとなると、モテて当然かもしれない。 花菜達の他にも、数人の女子が見学していて、途切れ途切れ聞こえる会話に「樫原クン」「カッコいい」という言葉が聞かれる。 「あれ」 「どしたの?花菜」 「ウチのクラスの田口(タグチ)がいる。サッカー部だったんだね」 「今さら?!」 美妃のあきれたような表情に、花菜は頬を膨らます。 「だって、構図とかどお描こうかなって迷ってたら、顔に目がいかなくて」 しかも、田口は中学も一緒だったクラスメイト。中学時代は何部だったか。 彼こそ花菜を「こけし」と言った張本人だ。 なんとなくくやしくて、田口なんか絶対絵の中にはいれてあげないと思う。 自分でも、意味不明な仕返しだ。 それから、放課後は美妃とサッカー部のグラウンド脇で絵を描く日々。 写真もあるから、色を載せる段階になると美術室で写真を見て描いていた。 絵も大分完成に近づいた頃。 「美妃。今日は天気すごくいいから、私外で描くね」 「そっかー。私は部室でやるかな」 さすがの美妃も、最近はセンパイセンパイ言わず、絵に集中している様子。学祭も近くなってきたし、学祭直前はクラスの出し物とかに集中したいから、早めに完成させた方が気持ちも楽だ。 花菜はひとり芝生に腰をおろす。 照りつける日射しは、9月とは思えないぐらい強く、薄手のパーカーのフードをかぶる。 グラウンドから聞こえる部員達のかけ声は心地よく響き、風も気持ちよい。やはり外で描くことにしてよかったと思う。 筆で色を塗りながら、空の色が思うように出来ず考え込む。今日みたいな濃い青の空にしたいのに。 「そこの女子!!あぶねー!!」 考え込む私の頭に、突然響いた太い声。 女子って誰の事かと顔を上げた瞬間、目の前にボールが見えた。 ボールとわかった時にはよける時間なんかなく、大きな音とともに衝撃が走り、花菜はとっさに顔を庇っていた。
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