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「大丈夫?!ごめん、蹴ったの俺なんだ」
さっきの声とは違う、低い声が近くで聞こえた。
顔を上げると、ユニフォーム姿の部員が息を切らせて屈んでいた。
額にかかった髪は汗で濡れている。すっきりとした顔立ちだが、日に焼けた肌のせいか男の子らしさを感じる。
「どっか痛いところないか?」
花菜は小さく頷いた。当たった瞬間は痛かったが、今は痛くはない。 恐らくは絵に当たった分衝撃もなかったようだ。
「あ……」
足元を見ると、絵が裏返って落ちており、焦って表を見る。
「…ほんと、ごめんな。またやり直しだよな…」
彼は俯いて頭をかきむしった。見るからに落ち込んでいて、逆に申し訳なく思う。
絵には無惨にもボールの跡がくっきりと残り、泥もこびりついていた。
手直し出来るレベルではない。完全にやり直しだ。この絵にかけてきた時間を思うと、正直きつい。
「あ、あのっ…。気にしないで!避けれなかった私も鈍くさいわけだし」
「いや、フツー避けれねーだろ。集中してたんだし…。ほんとに、悪かったな。ミスって、こんなとこに…」
確かに、いつもここで描いていたけれど、ボールが飛んでくることはなかった。
「ナリ!その子大丈夫だったか?ケガしてない?」
見ると、背の高い男子部員が走ってきた。
他のサッカー部員も気にしだして、チラチラ見ながら練習している。
注目されてるとわかると、恥ずかしさが増してきて、早くこの場から離れたくなる。
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