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街に蠢くその他大勢は
まるで増殖を続ける癌細胞みたいだった。
不気味に色褪せて
それでも、忙しなく動き続ける。
ずっとずっと長いこと
その渦巻く世界を彷徨っていた。
色を、彩を。
音を、香を
風を
――熱を。
君が連れて来たあの日まで、ずっと。
知らなかった。
世界がこんなにも美しいことを。
自然が
他人が
生命が
無機物すら
そこに意味を持って存在していることを。
初めて見る街のようだった。
否、
僕は確かに君の隣で初めて
鮮やかに色付いた世界を見た。
――綺麗な薔薇には棘がある――
その棘を
ひとつひとつ丁寧に処理して
漸く君に触れられるようになった。
甘い香りと耳をくすぐる声
柔らかすぎる君を
壊さないようにそっと触れた。
微笑み
温もり
全部が愛しくて
愛しくて
愛しくて
愛して
愛した
――2人でひとつ――
重なり合って
魂がひとつに戻って
僕は僕になる。
何度も何度も愛した。
見失わないように
壊さないように
誰にも奪われないように
逃げ出さないように
何度もなんども
何度も
なんども
愛して
溶け合って
そしてひとつになって
やがて僕は僕になった。
そして君は
――何になった?
手折られた薔薇は
生気を失って萎れてしまった。
輝いたあの世界は
あの美しい花は
君は一体
どこへ
どこへ?
僕は君の姿を求めて彷徨い歩く。
久しぶりに見る街並みには色がなくて
だけど
癌細胞でもなくて。
そこには沢山のニンゲンが
僕と同じスピードで歩いていた。
沢山
たくさん
ニンゲンが増殖する。
だけど君だけが
どこにもいない――。
彷徨い歩く僕の耳に
甘美な囁きが届く。
――ねえ、聞こえる?
貴方の望むすべてを
貴方に――
ああ、見つけた。
君はちゃんといたね
僕の中に。
抜け殻になった君の魂は
僕の中に。
じゃあ本当にひとつに戻るために
僕も君に
全部を、返すよ――。
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