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草木に隠れている不審な彼からすればもう天使のように思えた。
女の子は不思議そうに周囲を見回して、
ベンチに座って暫くキョロキョロと持ち主が現れないかと探していたけれど、
30分以上が経過して、
閉園時間が近づき園内に夕焼け小焼けの放送が流れ出すと、
それが置き忘れられたものだと理解したのか、
大事そうにサボテン缶を両手に乗せて
トコトコと公園の出口に向かって歩いて去っていった。
彼は最後までその光景を見届けていた。
『優しそうな子に拾って貰ってよかった。
きっと捨てずに大切に育ててくれるだろう。
サボテン缶よ、どうか幸せに…』
その時ふと彼は、
サボテン缶を置き逃げする事によって、
自分を容赦なく捨てた彼女と同じような立場になったような気がした。
『彼女も俺を捨てるとき、
申し訳ないような、祈るような気持ちになったのだろうか。』
『いつまでもしつこくして悪かったのかもしれないな…』
ようやく彼は、彼女を赦しその幸せを祈れるような気持ちになったのだった。
これで良かったのだと、
草間の影から感謝の気持ちを込めて、
サボテンを持ってトコトコ歩いて去っていく女の子の背中を見送った。
夕刻の訪れを報せる、
夕焼け小焼けが優しく公園に鳴り響き、
カラスが飛び立った。
夕陽が辺りを優しく包み、
草木の間で変なポーズをとる青年を陽に染めた。
感慨に浸ってカラスの鳴き声に紛れて、
彼は少し泣いたのだった。
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