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辺りを見渡せば夕暮れ時にも関わらず、寅の方角からは異様な空気が漂う。
ずっしりと重い。空気も、何もかも。
ぐずつく雨雲のような若干湿った空気は、人の持つ『御霊』を狙う妖の吐く息その物。
おどろおどろしい雰囲気に今回、初陣を切る響八(ひびや)は武者震いをしていた。
「…大丈夫。俺なら、出来る…! 」
自己暗示を掛けて体の震えを抑え込む響八に、目を細めて敵の軍勢を確認する壮燗(そうらん)が声をかけた。
「響八、やっぱりごめん。危ないし下がっといて」
「え? あ…、分かりました」
意気込んでいた響八の熱意は冷め切らない。
が、まともに戦う事が出来ない自身が、無力の他ならないと響八はすぐに諦めた。
討伐隊として合格した事だけを喜ぼうと、響八は気持ちを改める。
「壮燗、やけに遅かったな」
やや苛立ちを隠せない面持ちで、壮燗を試験官に指名した討伐隊の隊長を勤める鳴弥(なりや)が腕を組む。
そんな事はお構い無しに、壮燗は間延びした声で返事をした。
「いやぁ、諸事情にて油を売ってました」
「…それについてはお家芸の事後報告でやってくれ」
「はーい」
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